店主は気まま、客は我がまま。そんな気楽な銀座のBAR。でも、それでいいんじゃないの?

第二夜 シャンパンカクテルを『月の輝く夜に』

「あっ、いらっしゃいませ」
「マスターさ、今日はちょっといいことあったからシャンパン、いや、せっかくだからシャンバンを使ったカクテルを何か頂こうかな」
「そうですねぇ、いろいろできますけどね。フルーツと合わせたり、今の時期は桃とかブドウとか。あと、リキュールと合わせたり、、、そうそう、そのものズバリ、『シャンパンカクテル』というシャンパンのカクテルもありますよ」
「えっ?ちょっと待ってよ。こんがらがってきた。頭整理するから、ちょっと待ってて、、、シャンパン使ったカクテルがいろいろあって、その中に、シャンパンカクテルというシャンパンのカクテルもある、と。えーっと、小料理屋の縄のれんをくぐって、席に着く。で、『おーい女将、酒をくれ』、『あら、やだよー熊さん、酒ったって、日本酒のことかい? それとも何か他の酒かい?』、、、あー、何となく分かったよ」
「よく、そんな例えで分かりますね? というか、よくそんな例え思いつきますね」
「ということで、日本酒、もとい『シャンパンカクテル』いただきましょうか」
「かしこまりました。いつもは、リーデルの細長いグラスを使うんですが、何かいいことがおありになったようですから、特別に1910年頃のオールドバカラのシャンバングラスを使いましょう」
「100年前の。すごいねー。キレイなカットだねー」
「氷を2、3個入れて、グラスを冷やします。角砂糖使うんですが、普通のはちょっと大きいので、ナイフで半分にします。氷を捨てて、水分を軽く切ったグラスに角砂糖を入れ、ビターズを2滴ほど垂らし、グラスの縁からシャンバンを静かに注ぎます。では、どうぞ」
「いやー、すごい泡だね。シュワシュワ、シュワシュワ。角砂糖恐るべし、ですな」
「80年代のアメリカ映画で『月の輝く夜に』ってご覧になりました?」
「あっ、あれでしょ。観た観た。ニコラス・ケイジ、まだ髪フサフサの頃ね。あとは、歌手でもあるシェールね」
「そう、最後は二人の結婚が決まって、家族みんなでシャンバンでお祝いするんですが、グラスに手づかみで角砂糖ポンポン入れていくんですよ」
「おー、まさしく『シャンパンカクテル』じゃないの。いやーそんな細かいシーンよく観てるね」
「もっと細かい話しますと、映画の前半でシェールが酒屋によって、アスティ社のスプマンテ(イタリアのスパークリングワイン。イタリア系家族の設定だからか?)だったと思うんですが、それ買って一人わびしく飲むシーンがあるんです。でも、最後のお祝いのシーンは、多分、マムかパイパー(ピぺ)のどっちかだったと思うんですよね。古今東西、老若男女、やはり、祝いごとといえばシャンバンなんでしょうね。例えば、モーパッサンの『テリエ館』という小説なんですが、、、」
「マスター、待った待った。申し訳ないけど、また話長くなるんじゃないの? せっかくのお祝いに水を差すようなことは止めてよね。“差す“のはシャンバンだけで十分、、、って、また拗ねちゃったの?」
「拗ねてませんよ。ただ、せっかくのお祝いですから、華を添えようかと」
「おっしゃっている意味がよく分かりませんが。毎度困ったもんだねー、、、あれっ、何か静かだと思ったら、マスター、レコード終わってるよ」
「あっ、今すぐ」
がしゃがしゃ、プチっ。
「おー、これは『フライ・ミー・ツゥ・ザ・ムーン』じゃないの」
「ハンプトンホーズのピアノトリオです。ドラムが煩すぎる感がありますが、ちとオシャレになったホーズのプレイですね」
「『私を月に連れていって』かー。たまには気が利いてるねー。いい選曲だねー。あー女将よ女将、、、マスター、月は魔物だね」
「さっきの映画でも、月の魔力に当てられて、二人は結ばれますからね」
「あー、僕も結ばれてみたいねー。どうだろうマスター。今宵は良い月が出てるかな?」
「さー、どうですかね? 店から出てみませんと」
「そりゃそうだ、、、まあ、ひとつ賭けてみるか。この店を出て、良い月だったら女将に会いに行く、と」
「えっ? じゃあ、さっきの熊さんネタは、ただの冗談ではなかったんですね。女将は実在し、お客様のお名前は熊?」
「熊でないことは事実だね。ところでマスター、今日も他にお客来ないようだけど、まあ、めげずに頑張ってよね。いつかツキがまわってくるよ」
「ありがとうございます。熊さんも良い月に出会えますように」
「だから熊じゃないって、、、まったく、ツキ合いきれないね」