店主は気まま、客は我がまま。そんな気楽な銀座のBAR。でも、それでいいんじゃないの?

キングスバリー社ブナハーブン13年

「おまえさん、この酒どうしたんだい?」
「おっ、こりゃーな、『ブナハーブン』つってな、スコットランドはアイラ島でも、燻煙臭が穏やかな麦芽ウヰスキーでな、しかもシェリー樽で寝かせたのを、そのまんま瓶詰めしたやつだ」
「そんなこと聞いてんじゃないよ。あんた、小西さんとこの酒屋、ツケ溜まりすぎて、顔出せないんだろう? ツケがきかなきゃ、どっかで現金で買うしかないじゃないか。だから、その金どうしたのかって聞いてんだよ 」
「まあまあ、蛇の道は蛇ってな。虎穴に入らずんば虎子を得ずってな」

「何訳の分かんないこと、、、おまえさん、あんたまさか、、、(バタバタバタ、バタバタバタ)やっぱりそうかい。また、あたしの着物、質に出したね。一体どうしてくれんだい。もう、これっきゃないんだよ、、、この甲斐性なし、宿六、、、何がブナハーブンだい、あんたが働かないから、鯵の一匹、いや、鰯の一匹ったって買えやしないんだよ。何がブナハーブンだい、鮒の半分でも買ってきて見やがれってんだい」
「いやー、上手いとこ言うじゃねーか。ブナハーブンにかけて鮒半分か、、、いや、ありゃー泥臭くて、こっちからごめん被るね」

「おまえさん、頼むから仕事行っておくれよ。もう、うちら二人だけじゃないんだよ」
「えっ? 今、なんつった?」
「だから、これからは二人だけじゃないんだよ」
「まさか、おめー」
「そのまさかなんだよ」
「えっ? おれの子?、、、いてっ、おめー、ボトルで殴りやがったな。おー、割れなくて良かった、良かった、、、」
「もー、この人ったら、、、」
「分かった、分かった、もう泣くな。俺が悪かった、、、よし、おめー、俺ぁ働くぞ。ついでに酒も止める。この酒はこれから返してくらー」

「おーい、帰ったぞ」
「おまえさん、その魚は?」
「コノシロだよ。お祝いだ。焼いて食おう。出世魚にあやかってな、お腹の子が立派になりますようにってな」
「まあ、今のあたしたちにゃー、出世魚でも、ブリって訳にはいかないね」
「そう嘆くな。これから真面目に働きゃー、ブリぐれー、すぐ食えるようになるさ」
「でも、おまえさん、ほんとに酒止められるのかい? あんなに好きだったもんをさ」
「じゃ、この子がデカくなって、ハマチ(二十歳)になったら、一緒に飲もう」