店主は気まま、客は我がまま。そんな気楽な銀座のBAR。でも、それでいいんじゃないの?

ヘビーピートのブナハーブン

「ただいまー」
「あっ、ぼうや、お帰りー。あれっ? お父つぁんはどうしたんだい?」
「えーっとね、お父つぁんが僕に聞いたんだ、『ぼうや、風呂へーって、喉渇いたろ? 麦茶飲みたくねーか?』って。うんって言ったらね、『そうだろ、お父つぁんもだ。だから、オメーは先帰って、家で麦茶飲みな。なっ。お父つぁんは、ちょっと大人の麦茶飲みに行ってくっから』って」
「それで、風呂屋から一人で帰ってきたのかい?」
「そうだよ。僕が着いていこうとしたら、『駄目だ駄目だ。大人の麦茶なんだから』って」
「どうしようもない人だね。こんなちっちゃい子、一人で帰らすなんてさ。それにしても、大人の麦茶ってな、何だろね」
「なんかねー、鮒が半分、とかブツブツ言ってた」
「鮒が半分ねー。鮒が半分、鮒が半分、鮒半分、鮒半分、、、あっ! ブナハーブン! ぼうや、良い子に留守番できるかい? すぐ戻るからね」

(ガラガラガラ)
「あんた! やっぱりここかい」
「おっ、オメー、よくここが分かったな」
「何年あんたの女房やってっと思ってんだい。熊んとこで、飲んだくれてんの知らないとでも思ってんのかい。しかも、あんなちっちゃい子一人で帰らすなんて、どうしようもない父親だね」
「いやいや、これはな、なんだなー、この熊のマスター、略してクマスターがな、良い酒が入ったってな、ちょうど、銭湯ですれ違ったときな、言うもんだから、、、」
「ブナハーブンだろ?」
「おっ、よく分かったな」
「何年あんたの女房やってっと思ってんだい。なにがブナハーブンだい。どんなご大層なもんだろうが、そんなのはねー、厠(かわや)行って、垂れ流したら、それでお仕舞いなんだよ」
「オメーも分かっちゃいねーなあ。物事の上っ面しか見てやがらねー。いいかー、、、」

(おっ母さーん、、、おっ母さーん)
「あっ! ぼうや、ここだよー、なんだい、着いてきたのかい? 駄目じゃないか、お留守番しとかなきゃ」
「あっ! お父つぁん!」
「よっ、ぼうや。さっきの湯は気持ち良かったなー」
「うん。あっ! 麦茶飲んでんだねー。いいなー、僕も飲みたいなー」
「ハハハ。これはな、大人の麦茶だから、今はまだ飲ませらんねーんだ。でもな、これだけは覚えときな。風呂行って気持ちよかったろ? 風呂は身体を清めてくれる。大人の麦茶は魂を清めてくれるんだよ」
「あんた! 下らないこと教えないでおくれよ。あんたみたいな飲んだくれになっちゃ困るからね」
「こればっかはなー、遺伝だからなー」
「ぼうや、帰るよ。こんなこといたら、夢ん中で、えん魔様に拐われっちまうよ。帰ろ、帰ろ」
(ガラガラガラ、バシャン)
「ちえっ、何言ってやがんでー。人を大酒飲みのうわばみみたいによー。遺伝には逆らえねーんだよ、、、」

(ペペン、ペン、、、ペペン、ペン)
「おっ、熊のマスター、略してクマスター、三味線をチューニングしてくれてんのかい?」
「オメーが遺伝の話し始めたらな、いつものごとく、歌わねーと気がすまねーだろーと思ってな」
「そうか、ありがとな。クマスターの伴奏で歌うのが一番だ」

(ペペンペンペンペン、ペペンペンペンペン)

~遺伝ブルース~
(作詞作曲=BAR藤山、key=Am7)

俺のオヤジは 酒飲みなのさ
そういや じいさんも 酒飲みだった
案の定だぜ この俺もまた 酒飲みなのさ
今日もまた のれんが恋しい

(二番、三番=略)

結局すべて 遺伝なのさ
じじいはオヤジ オヤジは息子
自由が欲しい? 笑わせるな
生まれたときが 死ぬときなのさ
存在 自体が 蜃気楼
夜になれば すべてが消えてくさ

遺伝ブルース
遺伝ブルース
遺伝ブルース、、、

「(ペペン、ペン)よーし、調子出てきやがった。八よー、サビんとこ、もう一丁」
「我ながら、いいサビだねー。目頭にツーンとくるね」