映画が終わって、いつものパブへ。
「おねーちゃん、いつものハウスエール、ハーフ(半)パイント2つね」
「ちょいとお前さん、いつもはワンパイントじゃなかったかい?」
「うるせー、うるせー、亭主のやることにいちいち口出すんじゃねー。オメーがBunkamuraは夫婦50割があるってっから、わざわざやって来たのに、そんなもなー、どこ探したってありゃしねーじゃねーか。普通の値段で観るなんざ、ここ何年もやったこたーねーんだよ」
「だから、日曜は最終回割引があるから、それにしようって言ったじゃないのさ」
「うるせー、うるせー、こちとら江戸っ子だぞ、そんな最終回までチマチマ待ってられるかってんだ。そんなの待つやつはなー、よっぽどの貧乏人か暇人にちげーねーんだよ」
「ビールをけちるような人に、そんなこたー言われたくないやね」
「ところで、お前さん、今日の映画はどうだったい?」
「あっ、『パリの恋人たち』かー。フィリップ・ガレルの息子で、俳優のルイ・ガレルが初監督もやっちまったってやつな。うーん、なんとも言えねーなー。味わいはもちろんフランスのそれだし、なんかエリック・ロメールの格言集を思わせる感じもするんだけどもよー、まあ、いいや、ビールが冷めちまわー。飲も飲もー」
「あたしゃねー、チラシの隅っこに書いてある『パリが恋をさせる』ってやつに、シビレちまうんだよね。うちらが住んでる日本橋だと、こうはいかないねー」
「確かにな。『日本橋が恋をさせる』ってな、こりゃどうもうまくねーな。日本橋ったらなんだろなー?」
「そうだねー、、、あっ、『囲碁をさせる』って感じじゃないかい? 『日本橋は囲碁をさせる』。これだとしっくりくるねー」
「オメーは相変わらずのとんまだね。どこをどうすりゃ、そんなことが浮かぶのかね」
「また、わたしのことを馬鹿にすんのかい? じゃ、もう一緒に映画行ってやんないよ。夫婦50割が使えるとこでも、一般料金になって、ビールもハーフパイントしか飲めないんだよ」
「俺が悪かった。以後(囲碁)よろしく」
(藤山)