店主は気まま、客は我がまま。そんな気楽な銀座のBAR。でも、それでいいんじゃないの?

ヴィスコンティ『異邦人』

久しぶりのヴィスコンティ。しかも、お気に入り、カミュの同名小説を映画化した『異邦人』(68、仏、伊合作) です。製作年に公開され、この度のデジタルリマスター化により、約50年ぶりの劇場公開。新宿シネマカリテで鑑賞です。

主演ムルソーには伊太利亜が誇るマルチェロ・マストロヤンニ、そして、その恋人役には、伊藤さん、観てきましたよ、ジックリと、我らが誇るアンナ・カリーナです。

アラブ人をバーン、そして、法廷でのあの有名な台詞、撃ったのは「太陽が眩しかったからだ」。
舞台は灼熱の乾ききった北アフリカ、アルジェ。カミュの文体自体がそうなのですが、ムルソーの心も乾ききっています。乾ききった正直な行動、発言。
しかし、検察官、神父をはじめ周りは、そうはみなさない。

お母さんが死んだら、嘆き悲しむもんだ。その葬儀の夜に映画館で喜劇を観ちゃいけねー、彼女と愛し合っちゃいけねー。彼女から愛してる?と聞かれて、別にー、とは何事だ。神を信じないだとー、、、こんなヤローは死刑が相応しい。
降ってわいた不条理。しかし、彼はただ正直にそれに向かうのです。周りから罵倒されようと苦笑されようと。

悩みの末に死の悟りを開くまでの、マルチェロ・マストロヤンニの演技よ。
はじめはね、少し年いった額、目尻のシワの感じが、どうも原作のムルソー像とはかけ離れているような違和感が。
シワってのは、そこに、世慣れた世間知とか、いやらしさも刻まれているようで。
ただ、時間の経過とともに、それも忘れ、最後の演技に至っては素晴らしいの一言。

いつの時代も媚びることなく、正直に生きるのはむずかしいですな。
ムルソーは死刑、モリエール『人間ぎらい』のアルセストは宮廷、社交界を捨てて旅に出、泉鏡花『湯島詣』の蝶吉、神月は大川に身を投げ。