人は元来孤独である。ただ、金銭の余裕なり、素敵な恋人や仲間がいるなりして、それを忘れさせてくれる場合に限り、いわゆる幸福を感じることができる。
華やかな都パリ。華やかであればあるほど、全てを失った男の悲惨さも際立ち、周囲に対する妬み、ひがみ、そねみの三姉妹に付きまとわれることになる。
引き続き渋谷のBunkamuraル・シネマで、エリック・ロメール監督特集に出掛けまして、本日は初の長編作『獅子座』(59) を鑑賞です。
莫大な遺産を相続するハズだった男。その電報に舞い上がり、ドンチャン騒ぎ。
「カシスを白ワインで割ったのが食前酒に最高なんだ」
それはね、キールって云うんですよ。ディジョンの市長だったキールさんが考案したから。正式にはブルゴーニュのアリゴテ種の白ワインを使うらしい。
それはどうでもいいことですが、結局遺産は相続ならず、一文無しに。友達はみなバカンスやらでパリにおらず(ちょうどバカンスの時期。『緑の光線』(86) 思い出すねー)、ふらふらパリをさ迷うしかない(パリを楽しめます)。
髭はボウボウ、服はボロボロ、靴は壊れて何か食わしてくれってパクパク。本人も空腹の限界。万引き見つかってどつかれ、マルシェの残飯漁り、極めつけはセーヌに浮かぶ何やらまで食おうと。とうとう最後はホームレス状態。
しかし、ホームレス仲間とオヒネリ稼ぐために寸劇やってるところで一発逆転が。
あーあ、観ている僕まで疲れました。喜劇のような悲劇。この貧乏極まりない状況は、イタリアのネオリアリズモと呼ばれた50年代辺りのデシーカ作『自転車泥棒』とか『ウンベルトD』を思い出させまして。
これ以降のロメール作品とは大分毛色が異なりますね。
安部公房の『燃え尽きた地図』のラスト辺りで、主人公の探偵が電話ボックスに入り、そこで新聞紙からはみ出た大便を見つけます。未消化の残存物を眺めながら、何故、この男(多分男でしょう)は、この大都会東京で便をこの場所にしなければならなかったのか、トイレは何処にでもあるだろうに、と考えます。
東京砂漠。華やかさの影に隠れた人間の悲惨さよ。