店主は気まま、客は我がまま。そんな気楽な銀座のBAR。でも、それでいいんじゃないの?

ピエール・ロチ『秋の日本』

プルーストやら芥川やらで、その名を知ったピエール・ロチ。
神保町の古書店を覗いてたら、見つけてもうた、『秋の日本』。
フランス海軍の将校として初来日した明治18年の日本見聞録。

有名なのは、その前半春からの、長崎での現地妻との暮らしを綴った『お菊さん』(プッチーニのオペラ『蝶々夫人』の参考にもなったみたい)。これもいつかは読んでみたいけど。

と、いやー、良かったなー。心に染み入りました。
以前、映画ですが、ソフィア・コッポラの『ロスト・イン・トランスレーション』やら、キアロスタミの『ライク・サムワン・イン・ラヴ』なんか観たとき、おー、我が日本はこんな感じに見えるのね、と、異国人の目を借りた繁華街のネオンを、一歩引いた感じで眺めたものですが、この本もしかり。

さらには、維新後の混乱極まりない、日本人の僕でさえ見たことのない(当たり前かー)近代早々期の日本が、生き生きと、しかし、どっかお伽の国の物語のように感じられて。

ロチの目に映った日本人は、たびたび表現される、黄色い猿、獣の臭い、錐で穴を開けたような目、、、今では人種差別とされる形容ですが、本当にそう映ったんだろね。
そして、旧大名の西洋風の爵位を名乗った上層人や、官吏らのお仕着せのようなフロックにハット姿への嘲笑。
一方で、結髪に簪、着物姿のムスメ(プルーストでもこの表現あるね)たちへの暖かい眼差し、、、

京都から始まり、江戸は鹿鳴館での舞踏会(芥川の短編の下敷きとなった)、鎌倉、日光、赤穂四十七士の墓、江戸散策(浅草をla sakusaと表記したのがフランスっぽい)、赤坂御所での皇后への謁見など、どれもこれも素晴らしい短編の数々。

神社仏閣が醸し出す荘厳さ、それへの畏敬。彫刻、装束への賛嘆、自然と造形物が織り成す調和、ワビサビ。田園風景を前にした自国への想い。

そして、我が鼻孔をくすぐるような秋の空気感。
あー、ここは日本だった。異国人の目を通した紛れもなき日本。そして、失ってしまった日本、、、