店主は気まま、客は我がまま。そんな気楽な銀座のBAR。でも、それでいいんじゃないの?

小津安二郎特集

連休。
と、神保町シアターでは生誕120年、没後60年を記念して「フィルムでよみがえるー白と黒の小津安二郎」特集をやってまして。
トーキー12作品に加えてサイレント5作品、しかもなんと弁士やらピアニストらによる生演奏つきという企画。
活弁なんか、たしか国立映画アーカイブでのルビッチのサイレント以来だなー。

『その夜の妻』(30、松竹蒲田)

まずは昭和5年のサイレントから。ビアノの生演奏付き。主演は岡田茉莉子のお父さん。

おー、なんだこの強盗シーン、緊張感たっぷりのサスペンスは。この光と影の効果よ。これ小津ですか。

この強盗、実は貧乏画家。家には病気の娘と看病にくれる嫁が。
医者に払う金がねー、強盗、、、
この嫁さんが凄い。瓜実顔のやつれた優しさとは一転、つけてきた刑事を相手にあーだこーだ。

この貧乏画家の自宅セットは凄いね。嫁さんの和服との対比、あまりにもモダンな和洋折衷。
ついこの間の成瀬巳喜男監督のサイレント作品『夜ごとの夢』の酒場では、バーの奥で女将の飯田蝶子が和服で長火鉢の前に居座りキセルをパンと。
イヤー、この時代の和洋折衷の素晴らしさ。

まあ、ストーリーは最終的にお涙頂戴の分かりきった展開となるのですが、分かりきった内容だからこそ、画面から滲み出るその美しさに集中し、最後には参ってしまったのです。

あっ、生演奏。
初めは画面と平行を保っていた感がありましたが、いつのまにやら一体化し、後半は生演奏ということさえ忘れとりました。
終了、拍手喝采。

『長屋紳士録』(47、松竹大船)

連休二日目は昭和22年、小津の戦後復帰第一作。トーキーです。
主演は先述した飯田蝶子。ここでも火鉢にキセルをパンパンと。

イヤー、ほんと良い。笑えて泣けて、こんな当たり前の表現しか浮かばないほど、特に言葉はいらない素晴らしさ。
後の小津作品を貫くカット割り、セリフ回し、なんか落ち着くわー。

貧しさの中でこそ浮かび上がる人情、そして甘いもの。
貴重などら焼きに、日本古来のトラディショナルスイーツ干し柿。

満ち足りた腑抜けた現代日本人よ。チョコとかケーキとか食ってんじゃないよ。
あんこ食え、干し柿食え。
そして、昔の日本映画を観よう。