と、神保町シアターで開催されています「女優魂ーー忘れられないこの一本」 と題する特集に連日出掛けまして、昭和29年大映作品『近松物語』(54) と、昭和37年松竹作品『秋津温泉』(62) を観賞です。
『近松物語』
溝口健二監督の、特に時代物は素晴らしいですな。これも、ズーっと観たかったうちの一本。
長谷川一夫と香川京子主演の近松戯曲が元ネタ。
溝口の『山椒大夫』において、香川京子は履物を脱ぎ、湖に一歩一歩と進み、“乙女“のままその生涯を終えるのですが、今作では、湖に浮かぶ舟の上で、今際の際に“女“としてよみがえり。
もうね、こうなったら手がつけられません。
不義貫通の罪で、市中引き回し、多くの目に晒されたときの、この恍惚の表情よ。
大衆がなにさ、この小童どもよ、ひょんなことから始まったけど、私は私の恋を生きるのよ、打ち首なんか怖くはないんだよ(昔の京方面の上品な言葉に変換してください)。
いやー、大スター長谷川一夫をいろんな意味でクッテシマッタ、素晴らしきかな香川京子よ。
『秋津温泉』
そして、岡田茉莉子です。
出演百本記念作品。監督、原作、衣装全てを彼女がセレクト。つまりは今作の或意味プロデューサーでもあります。
物語は終戦の夏からスタート、紅葉鮮やかな秋、雪深き冬を経て、満開の桜に彩られた春まで。
しかし、男女の愛憎は一年でおさまらす、その間数十年の歳月が。
そして、桜は散る、、、
日本の、秋津の自然の美しさよ。それを背景に、まざまざと浮かび上がる岡田茉莉子の美しさよ。
四季に合わせた着物もこれまた楽しい。
神は自然よりもほんの少しだけ、彼女に美の造作を施したらしい。
あー、彼女と共に生きてきた、劇場埋め尽くす、ジジイの観客がうらやましい。