パッションフルーツとラムのカクテル。
ニコラス・ローグの『地球に落ちてきた男』は、彼特有の映像美に酔いしれる一方、二時間半にも及ぶ長丁場に、その酔いはグダグダ感へとなっていき。
しかし、その素敵なラストシーン。いや、そのグダグダがあったからこその、酔いざめの素晴らしさ。
スーツにハット姿の、地球に落ちてきた宇宙人、デヴィッドボウイがガクッと項垂れ、アーティ・ショウのクラリネット奏でる『スターダスト』が、一陣の風の如く舞い上がる。
二度と宇宙には帰れない彼への、あまりにも爽快なレクイエム。
と、コルトレーンの『スターダスト』。
あまりにもスローな、そして地球の重力を全く無視したような上下運動は、音の到達点が我々地球人の理解を超え、ただただ永遠に宇宙を漂うが如し。
重力があればこそ、我々はここにあり、カクテルもそこにとどまる。
しからば、重力なき宇宙を想像したらん。
我々の思考はフワフワと浮遊、この黄色いカクテルもグラスを飛び出し、雲の如き広がりの後、小さな小さな粒子となり、空に浮かぶ無数の星となる。