素晴らしい作品でした。
引き続き国立映画アーカイブで開催されています撮影監督、三浦光雄特集に出掛けまして、本日は昭和28年の大映作品、豊田四郎監督の『雁』(53) を観賞です。
原作森鴎外の『雁』は残酷な物語である。
極貧と云う掃き溜めの中の雁、いや鶴、駒子は当時のご多分に漏れず囲い者となる。
旦那が実は高利貸しであり(弱味にツケコミ金が金を産む商売よ)、恐妻があり、そんなこんなが徐々に明るみになり、極貧よりも更なる精神的苦痛にさいなまれる中、ふと見掛けた帝大生に想いを寄せる。
あー、この人が私をこの境地から救ってくれる。しかし、ふとした運命の石の飛礫に絶命した雁の如く、駒子の想いは、淡い恋は、終わりを告げるのである。
鴎外のあまりにも淡々とした語り口は、この残酷な物語を、乾いた、ある種“爽快“なもののように感じさせるけど、この豊田監督の『雁』よ。
三浦のカメラが切り取るすべてに、情念と云う薄いヴェールがまとわりついているような、残酷なまでの美しさよ。
情念はやがて雨となり、と止むとこなくどこまでも降り続ける。
傘を叩き、足を濡らし、やがて流れ込むは不忍池。
と、飛び立つ雁は、原作をも飛び越え、駒子を一縷ののぞみに誘うのであった。
あー、高峰秀子よ。