店主は気まま、客は我がまま。そんな気楽な銀座のBAR。でも、それでいいんじゃないの?

『旅役者』

神保町シアターで開催されています「にっぽん、芸道物の世界」と題する特集に出かけまして、本日は成瀬巳喜男監督作、昭和15年の東宝作品『旅役者』(40) を観賞です。

桃栗三年柿八年。
馬の役ならば、後脚に五年、前脚ともなれば十年の修業が必要なのだそうである。

そんな長期の修行を積んだベテラン前脚と、僅か二年ほどの後脚の師弟コンビが、旅芸人一座で繰り広げるドタバタ劇。

馬の被り物なくとも、歩けば自ずと出ちまう足癖は、もう馬以上に馬なのであり、「上手くいくかね」等々の馬にかけた台詞の飛び交い、「お冷や」が溝のせせらぎに移り変わるカット、そして障子の破れ具合、これら細い成瀬の演出は、現実以上に現実なのである。

とうとう馬芸のベテランの意地が災いし、本物の馬に役を乗っ取られていまう。

「本物の馬に、馬の芸が出来てたまるか」

芸、映画。
虚構を突き詰めれば突き詰めるほど、それは象徴となり、現実をも飲み込んでしまう。
その突き詰めとは、細部へのこだわりなのである。

作家ナボコフの言葉を借りれば、細部にこそ美は宿り、それこそが芸術なのである。